あれから三十八年、今まで色々な人間と出逢い、色々な体験をしてきた。その全てのも
のが役者として身になっているかといえば、どうやらそうでもなさそうだ。現に、俺はい
まだに売れない役者の一人である。
この世界は側から見るほど楽しい世界ではない。気持ち良さそうに湖上を泳ぐ白鳥のよ
うに、水面下ではみんな死に者狂いで足を動かし、どう生き延びようかと必死になってい
るのだ。売れる、売れないは別として、役者H という名の人間は掃いて捨てるほどいる。
当然、全ての役者に仕事が来るわけではないから、どこか別のところで働かざるを得ない
のだ。もちろん、この俺もである。
ある時、ひょんなことから披露宴の司会をやるようになった。今までに、その数三百五
十組強。自分ながらよくやったものだと思う。これは、俺にとっては大きな収入源となる、
とても大事なアルバイトなのである。俺以外にも、役者だけでは喰つてはいけず、まるで
アルバイトを生業にしているような脇役役者は大勢いる。せつないとき守えばせつないが、
そうまでしても役者という仕事を捨てきれないのだろう。
俺達はまだいい。最近はあまり顔を見ないが、一度でもスターという椅子に座ったこと
のある役者や歌手は、今一体、どこで、どんな生活をしているのだろうか。まさか奴らは、
俺みたいに色々なアルバイトをしないだろう。やりたくてもやれないのだ。
そこへいくと売れない役者は失うものがないからだろうか、どこか気楽なところがある。
まさに人生ρケセラセラH なるようになると思っているのかも知れない。
ひょんなことから芸能界に入り、ひょんなことから結婚式の司会をするようになった一
人の売れない役者が、また、ひょんなことから本を出すことになったのだ。
披露宴という名の台本のない人間ドラマ。そして、そこで起こる様々な出来事。また、
いまだにρ夢H を追い続け、役者を捨てきれないでいる脇役役者の悲哀。とくとご覧下さ
い。